待宵草 2 

経も緯も 庭に生えているメマツヨイグサで染めた
札幌・手稲のメマツヨイグサ色
ほんのりと紫が滲み出るように ラックダイの紫を忍ばせる

メマツヨイグサで染めた糸で織った八寸帯地の写真

庭の草木でグレー系に染まる糸は大抵、見る時間帯や日光具合・湿度などによって見える色が違う。それに加えて、経糸と緯糸の質や太さや色が違う交織布の特徴として、見る角度によっても色や浮き出る文様が違って楽しい
しかしそれは写真にも表れるので、撮るたびに色が違って難しい

経方向の縞模様は絹糸の強弱による
群馬県・蚕絲館の東さんが、私の織った葛の布を見て「作ってみたくなった」といって作ってくださった、変化のある糸。以来、定期的に作っていただいている
地紋のように見る角度によって紋様が現れる。時間帯によっては、色合いや色の強弱まで違って見える
私はこれを、「座繰り変わり糸」と名づけた

以前、この糸について、岡山県・染と織たかはしさんにご説明した際、「そのような糸は今まで聞いたことがない」と驚かれていたので、ものとしても技術としても、とても珍しい、即ち、これはお蚕さんと絹糸について深い見識のある、東さんの意匠によるもの

意図して意図せず、葛の糸の強弱とも交わり醸し出される文様は、見ても見ても見飽きない

お太鼓
前帯の内側でぼかしながら色が切り替わり、手先は明るい色となる。明るい未来の暗示
相変わらずお太鼓の内側には濃い色が覗く たくさんの見えるもの見えないものの影があってこその光

この帯地は、ご依頼主様のご意向を受けて制作
糸を染めたとき、「この色はまさにご依頼主様色だなぁ」と感じた
「こんな着物に合わせたい」という具体的なイメージがあって、ご依頼を受けたので
お着物の存在を邪魔せず、でも引き立て合う、そしてご依頼主様のご意向と、着物をお召しになるシチュエーションと、暮らし方と、お人柄と
制作に取り掛かるまでには相当の時間と思考が必要だった

結果的にはシンプルを極める形 しかしシンプルの極みは膨大な情報の上にしか成り立たないのだと思った
それに布は、それを身につける人を表す、「その人」の情報が載る
人が手で織るからには、そういうことが可能なもの〜それだけ懐の大きなもの〜を作らねばならないのだと、つくづく思った

縞模様だけれどもはっきりとした柄ではなく、色の切り替わりもグラデーションにしているので、合わせる着物によってカジュアルにもセミフォーマルにも寄せられ、汎用性が高い帯だと思う

とても示唆深い一枚

ご依頼主様のご多幸とご健康をお守りしますように
末長くたくさん使って頂けますように

待宵草2 八寸帯地 葛布 

緯糸 葛 手績み平糸(北海道札幌市)
経糸 絹 座繰り変わり糸(群馬県安中市)
染め メマツヨイグサ ラックダイ
  八寸一分
  一丈三尺七寸
2022.9 制作

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