楓 2

六寸帯地 葛布

葛布六寸帯地楓の写真

全体的にはモノクロームだが赤や黄色、水色がぼんやり浮かび上がる。縞、格子、無地は、現れたり現れなかったりして、白と黒の反転を繰り返す。

葛布六寸帯地「楓」 縞模様と格子模様が交錯する詳細

六寸帯という性質上、前帯側と背中側にどの部分が来るかは締め方による。合わせるお着物によって明るい色と濃い色とを使い分けられるように、また、背中側は両方の色がランダムに出ることをお楽しみいただけるように、ご依頼主様のご意向を伺い相談して、それぞれを配置した。ほんのり忍ばせた色の効果で割とどんな色柄のお着物にも馴染み良くおさまると思う。色々にお試しいただきご愛用いただけたらと思っています。

普段写真にはあまり映り込まない葛の糸の光沢。見る時間帯や角度、光源によって様々な色が見えるのも特徴の一つだ。

ところで「楓」というタイトルは、経緯とも自宅庭のイタヤカエデの枝葉を染料として染めた糸で、楓の存在のようなものをテーマとしていることに由来するもので、今回が2作目。我が家のイタヤカエデは僅かに緑を含む茶系のグレーに染まる。特に葛の糸は緑っぽい色に染まるので、布の上で経糸の絹のグレーと合わさることによる、色の視覚効果が面白い。これは我が家の庭のイタヤカエデの色なのだ。しかしそうした色彩の表面的なことのみに留まらず、植物の色の根本的な理由、生き様、全体の循環の中での個の循環、相反するものの同居、コントロールの効かない中の整合性、というようなものについては常々考えていて、その表現を試みている。

奇しくもそのようにして織ったものが自然の中の色彩のトーンと割と似ているということは良くある。

イタヤカエデの樹皮

イタヤカエデはアイヌ語でトペニ(tope-ni) topeはミルク・乳の意味でniは木、「乳の木」である。『アイヌと植物〈樹木編〉』(アイヌ民族博物館発行1993)で乳が出なくなった時に神様に頼んで樹液をもらい飲んだら良く出るようになったというエピソードが語られている。樹液は飲用・飯炊き用としたり煮詰めて飴にしたりしたそうだ。樹液は言わずもがなメイプルシロップであり、森の生き物の大切な栄養源で水分源でもある。

イタヤカエデの秋の紅葉と黄葉(自宅近くの公園にて/2023.10.21撮影 iphoneSE2)

経糸 絹 座繰り糸(群馬県)
緯糸 葛 手績み糸(北海道)
染め イタヤカエデ、赤麻、藍、蕗の薹、野葡萄、藤、コチニール

こちらの帯地はご依頼を受けて制作いたしました。末長くご愛用いただけますように。葛布の帯が日々の彩りとなり健やかで穏やかな暮らしをお守りすることを心から願っております。誠にありがとうございました。