山荷葉/Diphylleia

葛布四寸帯地 山荷葉  全体写真

夏、山を歩いていると、登山道脇に紫がかった鮮やかな藍色の小さな玉が目に飛び込んできた。何?と眺めていたら、たまたま居合わせた方が、サンカヨウの実だと教えてくれた。響きが独特で素敵な名前だと思った。帰宅後に調べると、晩春〜初夏に小さな白い花を咲かせ、雨に濡れると透明になりガラス細工のようになるのだという。緑の中でひときわ目立つ濃い紫青の実の佇まいも伴って、印象深かった。

ある時、手稲山の中腹でサンカヨウの花を見つけた。こんなに近くにあったなんてという驚きと共に、私の中で、ちょうどその頃にご依頼頂いていた「生成りの帯地」、そしてご依頼主様のイメージとリンクした。

色は、生成りを一層生成りらしく見せながら生成りの中で際立つ。色の存在により、生成りはより生成りになる。
「生成り」というご依頼だったが、見えないところに色を入れるのはどうかとご提案すると面白がってくださった。2年もお待たせしてしまったが、その間、柄も熟成されて、この度、やっとお納めできた。

普段あまりしない方法で柄を入れているので、技術的には拙く少しお恥ずかしいが、ずっとやりたかったことでもあったので、これからもっと磨いていきたい。

葛布四寸帯地 山荷葉 の柄の詳細の写真

六つの柄は、とても小さく、一巻き目、体側、帯の内側になる場所に入れている。締めた時には外からは見えない。

自分だけが知っている宝物、透明に(見えなく)なる花びら、実の藍と紫、雌蕊の黄色、2枚の葉、形を瓢箪になぞらえて六瓢箪の意味も載せた。持ち主様の健やかな暮らしを願うのは、ものづくりをする人全員に共通する真心だと思う。

柄は、手先側に寄せているので、表に出したいときには柄をタレ先側にして、背中側に出すようにして締めることも可能だと思う。

経糸の座繰り糸は細かく規則的に太さの違うものを入れている。縦方向に陰影による細かな縞模様が浮かぶ。


山荷葉/Diphylleia 
四寸帯地 葛布

経糸 絹 座繰り糸(群馬県)
緯糸 葛 手績み糸(北海道)
生成り 部分的に藍、蕗の薹、ラックダイ

こちらの帯地はご依頼を受けて制作いたしました。末長くご愛用いただけますように。葛布の帯が日々の彩りとなり健やかで穏やかな暮らしをお守りすることを心から願っております。誠にありがとうございました。