山葵 2 六寸帯地 葛布

山葵2

「山葵」というタイトルの帯地は以前にも織っており、今回は2作目で、六寸帯。 (1作目のご紹介はこちら) ご依頼いただいての制作。

1作目の柄やコンセプトを引き継ぎ拡大しつつ、ご依頼主様から伝わってくるお人柄やお仕事などを私なりに解釈し、色合いや細かなところは変化させている。

無地と、細かい格子と縞、濃い色と生成りが移り変わる。
縞模様は織物として、特に素材が自然由来のものである場合、必然性のある文様だ。

経糸の濃い色は、「紅下黒」(『日本の色辞典』吉岡幸雄著 p250)という色名に着想を得て、ラックダイで濃い赤紫に染めた後、ドングリの灰茶色を重ねて染めている。ドングリ単独で染めた色は「橡(つるばみ)色」だが、その奥に赤紫を潜ませ、全体とも調和させた。

一見するとただの濃い色だが、太陽光の加減や見る角度で赤が見えたり見えなかったりする、大変深みのある色。

反対側はラックダイのピンク〜赤紫。山わさびの、春の芽出しの色。

山わさび以外にも、芽出しの葉の色が赤紫な植物は他にも良く見かける。ゲンノショウコやメマツヨイグサもそうだ。踏まれてもどこにでも生えてくるような強い植物に多いように思う。のちに緑になるわけだが、赤紫は緑の補色であるのは何の不思議だろうか。

さて、山わさびは、ギョウジャニンニクと並んで北海道に暮らす人にとっての春のソウルフードだと私は思う。雪解けを待って一番に芽吹く自然の恵みに、心躍る気持ちを共有する。


太くなったり細くなったり、見えたり見えなかったりする縞・格子模様と、それらの交錯、色の反転。そこに、山葵の生き様を表したいと思った。冬の間、土の中でじっと根を張り、春になると地上に盛大に葉を伸ばす。太陽を浴び、土の中で縦横無尽に逞しく根を伸ばし、エネルギーを蓄える。力強くも、柔軟な。

日々、目には見えない変化が積み重なり、方々に影響を及ぼしていく様は、人間の営みにも似ている。

こちらの帯地はご依頼を受けて制作いたしました。末長くご愛用いただけますように。葛布の帯が日々の彩りとなり健やかで穏やかな暮らしをお守りすることを心から願っております。誠にありがとうございました。

山葵 2 六寸帯地 葛布 

緯糸 葛 手績み糸(北海道札幌市)
経糸 絹 座繰り糸(群馬県安中市)
染め ドングリ メマツヨイグサ ラックダイ
重さ 120g

2023.2 制作